声明・談話

特定秘密保護法案に反対する会長声明

2013年(平成25年)11月13日
和歌山弁護士会
会長 田中 祥博

政府は、2013年10月17日に「特定秘密の保護に関する法律案」を取りまとめ、今臨時国会に同法案を提出した。そして今国会で成立を目指すとしている。

しかし、9月3日から2週間の期間で行われた法案概要に対するパブリックコメントの募集に約9万件の意見が寄せられ、その約8割が法案概要に反対するものであったとされている。政府は、同法案に、「この法律の適用にあたって」「報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」との条文を加えることによって、反対意見の指摘する懸念はない旨述べ、国会提出を強行したが、以下に述べる同法案の問題点はそのまま残されている。

第1に、保護する秘密(特定秘密)の範囲を、「① 防衛、② 外交、③ 特定有害活動の防止、④ テロリズムの防止」に関する事項の4分野としており、その範囲は広範で、しかも不明確であるため、無限定に等しいものである。

しかも、その特定秘密の指定を行う権限は、情報を保有する行政機関の長に委ねられており、公正な第三者機関による事前審査の機会もないため、主権者である国民に知られたくない重要情報が、政府による恣意的運用によって、「特定秘密」と指定されて隠蔽される危険がある。

第2に、特定秘密の取扱いの業務に携わる者には、公務員だけではなく、特定秘密を取扱う民間企業の事業者や従業員にも重い秘密保持義務が課され、その漏えいは内部告発によるものであっても懲役10年以下の刑罰の対象とされ、過失や未遂の場合も処罰される。また、国会議員が議院や委員会で取り扱った特定秘密についても、その漏えいが刑事処罰の対象とされている。

第3に、特定秘密を扱う者による漏えいだけではなく、「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」により特定秘密を取得した者も処罰され、さらに、特定秘密を扱う者に対する教唆、共謀、煽動行為も独立して処罰対象とされているなど、メディアによる取材活動等に与える萎縮効果は著しいものがある。

第4に、特定秘密を取り扱わせようとする者に対する「適性評価制度」は、特定有害活動、信用状態、飲酒節度、精神疾患に関する事項等の極めて高度のプライバシー情報の調査・監視に及び、しかも、その調査対象は、特定秘密を取り扱わせようとする者のみならず、その家族(配偶者、父母、子及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母及び子)に関する事項にまで及んでいて、多くの国民にプライバシー侵害をもたらす危険がある。

第5に、特定秘密として指定された情報は、行政機関内のごく限られた者のみで独占され、国民にも、国会、裁判所にも原則として提供しない仕組みとなっている。国会に提供される場合は秘密会に限定し、加えて、国会が政令で定める秘密漏えいを防ぐための措置を講じた場合に限るとされていて、政令に従った措置をとらないと国会でも審議できなくなる。

当会は、「特定秘密の保護に関する法律案」が、上記のとおり国民の知る権利、取材・報道の自由及びプライバシーの権利の侵害となり、議会制民主主義を空洞化する結果となるなど多くの問題を有することから、その成立に強く反対するものである。