声明・談話

商品先物取引法における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明

2014年(平成26年)5月1日
和歌山弁護士会
会長 小野原 聡史

商品先物取引は、過去において、悪質な業者が突然の電話や訪問による勧誘によって商品先物取引の知識や経験に乏しい消費者を取引に引きずり込み、深刻かつ悲惨な被害を多数生じさせた歴史が存在する。

こうしたことから、2011年1月施行の商品先物取引法は、一定の商品先物取引(個人を相手方とする取引のうち店頭取引及び取引所取引であって初期の投資額を超える損失が発生する可能性のある仕組みの商品先物取引)について、不招請勧誘を禁止することとした。また、同法が改正される際の国会審議において、「さらに、施行後一年以内を目途に、規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし、必要に応じて、時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」との附帯決議がされた。

そして、同法が改正された結果、商品先物取引を巡る消費者の苦情相談件数は激減しており、まさに不招請勧誘禁止こそが商品先物取引被害撲滅の切り札であったことが明白に示されている。

さらに、2012年8月には、経済産業省産業構造審議会商品先物取引分科会において、商品先物取引についての不招請勧誘規制を維持することを確認する報告書がまとめられている。

ところが、経済産業省、農林水産省は、本年4月5日、「不招請勧誘規制に係る見直し」として、商品先物取引法第214条第9号の不招請勧誘禁止の例外を定める同法施行規則第102条の2を改正し、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に、熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満であること、基本契約から7日間を経過し、かつ、取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等について顧客の理解度を確認した場合に限る)を不招請勧誘の禁止の適用除外規定に盛り込むという同規則改正案(以下、「本規則案」という。)を公表した。

しかしながら、本規則案は、7日間の熟慮期間を設定するものの、同熟慮期間は、ハイリスク・ハイリターンな取引に不慣れな一般消費者の保護にはほとんど機能しないものである(この制度は、「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(昭和58年1月施行)第8条に14日間の熟慮期間として設けられたことがあるが、この熟慮期間を活用して被害救済された例はほとんど存在しなかった。)。また、本規則案は、顧客の理解度の確認を要求するが、顧客の理解度の確認は先物取引業者の判断で行うものであり、恣意的な判断を招きかねないものであって、消費者の保護として十分なものとは言えないものである。

今日においても不招請勧誘禁止規制を潜脱する業者の勧誘により消費者が被害を受ける事例が、なお相当数報告されているところであり、そのような中で、本規則案を導入することとなれば、70歳未満の個人顧客に対する商品先物取引の不招請勧誘を全面的に解禁するに等しい結果となり、消費者に先物取引被害を多数発生させる可能性が高まるとの重大な懸念があるため、当会は到底これを看過できない。

また、本規則案は、「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為を除く。」(商品先物取引法第214条第9号括弧書き)とする法律の委任の範囲を超え、施行規則によって法律の規定を骨抜きにするものと言わざるを得ず、当会は到底これを看過できない。

当会は、2013年12月11日、総合取引所の下でも商品先物取引の不招請勧誘禁止は維持すべきであるとの会長声明を公表したところであるが、消費者保護の観点から、本規則案に示されている商品先物取引法施行規則第102条の2の改正に対しても強く反対する。