声明・談話

精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに反対する会長声明

2014年(平成26年)7月10日
和歌山弁護士会
会長 小野原 聡史

国は、現在「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会(以下「検討会」という。)」において、「病床の適正化により将来的に不必要となった建物設備を有効活用する」として、精神科病院の病棟をグループホーム等の施設(いわゆる病棟転換型居住系施設)に転換することで精神科病床や長期入院患者を減らす方向を打ち出している。本年7月1日に開催された第4回検討会(最終回)では、精神科病棟を居住の場として活用する方策を多数意見として盛り込んだ最終報告書がとりまとめられた。今後はこの報告書を踏まえ、国が制度の具体的内容を詰めることになる。

日本の精神科病床は約35万床あり、30万人以上の入院患者がいる。そのうち約20万人が1年以上の長期入院患者であり、10年以上の入院患者も約7万人いる。このような入院患者数や入院期間は諸外国と比較しても群を抜いて多い。この中には、適切な支援があれば退院し、地域社会で生活できるにもかかわらず、支援がないために入院を余儀なくされる社会的入院患者が多数含まれる。このような精神障害者が置かれている現状は、ハンセン病患者の例を想起しても明らかなように、国による隔離収容政策が招いた人権侵害である。

社会的入院の解消は喫緊の課題であるが、入院患者の退院は、本人がかつて暮らしていた地域社会へ現実に移行することが最も重要である。精神科病棟を居住系施設に転換しても、入院患者の居場所は変わらず、結局、地域社会と隔離された状態が続く可能性が高い。また病院から直接地域社会へ移行せず、間に病棟転換型居住系施設を挟むことで、却って地域社会への移行が遅れ、施設にいる期間が長くなることが強く懸念される。更に、従前の医療従事者が施設スタッフとして残る場合、入院患者との上下関係がそのまま残る。以上から検討会でも、精神障害を有する当事者委員はいずれも病棟転換型居住系施設に反対意見を述べた。

日本が本年1月に批准した障害者権利条約は、障害のある人が、他の市民と同様に、どこで誰と生活するかを自ら選択する権利を有し、特定の生活施設で生活する義務を負わないと定めている。今、国がすべきことは、このような権利の実現のため、地域社会の中で、デイサービスやグループホーム等の各種施策を展開し、内実を伴った地域移行を進めることである。

当会は、精神科病棟を病棟転換型居住系施設として利用する方策に強く反対し、国にその撤回を求めると共に、障害者権利条約に従い、長期入院患者が速やかに退院し、地域社会の中で生活することを保障する施策の実現を求める。