声明・談話

人種的憎悪や民族差別を扇動する言動に反対し、
人種差別禁止法の制定をはじめとする実効性のある措置を求める会長声明

2015年(平成27年)2月16日
和歌山弁護士会
会長 小野原 聡史

京都朝鮮初級学校門前で、「在日特権を許さない市民の会」(いわゆる「在特会」)が行った「朝鮮人を保健所で処分しろ」「ゴキブリ朝鮮人、うじ虫朝鮮人は朝鮮半島に帰れ」等と怒号を続けた事件につき、2014(平成26)年12月9日、最高裁は、在特会側の上告を棄却した。これにより、在特会側の行為が「人種差別撤廃条約1条1項にいう『人種差別』に該当する」「表現の自由によって保護されるべき範囲を超えていることも明らかである」と判示した同年7月8日の大阪高等裁判所の判決が確定した。

これに限らず、近時、大阪や東京において、同様の人種的憎悪や民族差別を扇動する示威行動(いわゆる「ヘイトスピーチ」)が繰り返されている。和歌山においては、未だこうしたヘイトスピーチは行われていないが、県内には韓国・朝鮮を国籍とする多数の外国人登録者が居住しており、看過することはできない。

これらの言動は、朝鮮半島にルーツをもつ在日コリアンなどの人々を畏怖させ、憲法13条が保障する個人の尊厳や人格権を根本から傷つけるとともに、憲法14条の平等原則に違反するものである。

日本が批准している国際人権規約(自由権規約)は、「差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道を法律で禁止する」ことを締約国に求め、また、人種差別撤廃条約は、「各締約国は、全ての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法も含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させ」、「人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる扇動又は行動を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する」としている。

憲法及び国際人権法から見て、日本は、人種的憎悪や民族差別を扇動する言動を根絶させるための積極的な法的措置をとる責務があるが、現時点では、人種・民族差別は禁止、根絶されるべきであるという理念を定めた人種差別禁止法は存在しない。

上記のとおり、現在の日本では、人種・民族差別の対象となる個人や集団が、人種的憎悪や民族差別を扇動する言動によって、重大かつ深刻な法益侵害を受けており、このような事態は、到底看過できない。

よって当会は、人種的憎悪や民族差別を扇動する言動に強く反対する。また、当会は、政府及び地方自治体に対して、個人や集団に対する人種的憎悪や民族差別を扇動する言動を根絶するために、表現の自由への過度な規制とならないよう十分に配慮した上で、刑事法を含む現行法による適正な対応をとるよう求めるとともに、被害者個人や集団の救済と人種的差別の防止のために、速やかに人種的差別憎悪や民族差別を扇動する言動を行ってはならないことなどを明記した人種差別禁止法や条例の制定をはじめとする実効性のある措置をとることを強く求めるものである。