声明・談話

労働者派遣法改正に反対する会長声明

2015年(平成27年)5月19日
和歌山弁護士会
会長 木村 義人

政府は、平成27年3月13日、労働者派遣の期間制限等を変える「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を第189回通常国会(以下「今国会」という。)に提出し、現在国会において審議されている。政府は本法案の施行時期を平成27年9月1日と予定している。平成27年10月1日から、違法派遣について故意過失ある場合に派遣先企業が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものと見なされる労働契約申込みみなし制度が施行されるが、この制度の施行前に改正を予定していることになる。

本法案は、従来からある専門26業務による区分を撤廃した上で、派遣労働者に関する事業所ごとの受入可能期間を3年としている。しかし、この受入可能期間について、派遣先は、労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合には過半数労働者の代表者)に対する意見聴取によって、何度でも更新延長することが可能とされている。これにより、派遣先は、上記の意見聴取手続さえ経れば、永続的に派遣労働者を使用することができる。

また、派遣先の同一組織単位(課)における同一の派遣労働者の受け入れ可能期間を3年に限定しているが、派遣先が当該労働者を入れ替えて派遣労働者を受け入れ続けることについては禁止されていない。

さらに、派遣元から無期雇用されている派遣労働者については、このような期間制限からも除外されている。

即ち、本法案は、派遣先企業において、専門26業務か否かを問わず、労働組合等の意見聴取手続と派遣労働者の入れ替えにより、派遣労働者の永続的な受入を可能とするものであり、直接雇用の原則から導かれる常用代替の防止(常用労働者が派遣労働者によって置き換えられることの防止)の理念を事実上放棄するものである。

本法案は、「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とする」との文言を入れる等の修正をした上で、今国会に提出されたが、3年の期間制限は過半数労働組合等の意見聴取だけで延長できるものであって、本質的な点について変わりはない。また、派遣元に義務づけられた派遣期間終了時の派遣労働者の雇用安定措置(①派遣先への直接雇用の依頼、②新たな就職先の提供、③派遣元での無期雇用、④その他安定した雇用の継続を図るための必要な措置)についても、直接雇用が保障されるものではないなど、何ら実効性があるものではない。

我が国の多くの派遣労働者は、正社員に比して低賃金で不安定な雇用状況に置かれている。実際に、リーマンショック時のいわゆる「派遣切り」の事態において、多数の派遣労働者が職を失ったことは記憶に新しい。

本法案により派遣労働者の常用代替が進めば、雇用の不安定化と低賃金化がもたらされ、現在でも指摘されている、貧困・格差をより拡大・固定化させる危険性が大きい。

よって、当会は、本法案に強く反対するものである。