声明・談話

特定商取引法における訪問販売・電話勧誘販売の規制の強化を求める会長声明

2015年(平成27年)8月14日
和歌山弁護士会
会長 木村 義人

特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)における訪問販売及び電話勧誘販売の勧誘規制について、以下の立法措置を講ずることを求める。

1 オプト・イン規制の導入

訪問及び電話による不招請勧誘は、その密室的かつ一方向的性格のため、従前から悪質商法の温床となってきた。また、悪質商法以外の場合であっても、これらの勧誘方法は、消費者の自律的意思決定を阻害し、本来望んでいなかった不本意な取引に巻き込む危険性を有している。

そのため、多くの消費者にとって、これらの勧誘行為は、それ自体が迷惑な行為である。現に、わが国の行政機関や消費者団体等が実施した近年のアンケート調査では、訪問勧誘及び電話勧誘を不要と回答した人が約96%に及んだ。

加えて、この問題を考えるにあたっては、日本社会の高齢化にも配慮しなければならない。高齢者の場合、事業者との間の交渉力の格差はより顕著となるし、勧誘拒否の意思表示を行うこともきわめて困難な場合が多い。

このような事情に鑑みて、最も実効的な消費者保護の方策と考えられるのが、オプト・イン規制(契約締結についての勧誘を要請していない消費者に対して、訪問又は電話による勧誘行為(勧誘受入意思の確認を含む。)を禁止する制度)である。

これに対しては、オプト・イン規制が事業者の営業の自由を侵害する過度の規制であるとの意見もあり得る。

しかし、オプト・イン規制といっても、営業活動全体のうち一定の方法における行為だけを規制するものに過ぎず、また、訪問勧誘や電話勧誘以外の方法による勧誘行為については何ら制約するものでない。したがって、同規制は、消費者の生活の平穏を守るとともに、自主的かつ合理的な選択を確保するための、合理的な手段である。

2 「事前のオプト・アウト規制」の導入

仮にオプト・イン規制を導入しないとしても、少なくとも「事前のオプト・アウト規制」(予め訪問及び電話による勧誘を拒絶する意思を表示した消費者に対しては勧誘をすることができない、という勧誘拒絶制度)を導入すべきである。具体的には、次のような方法が考えられる。

ア.訪問販売
消費者が、戸口など事業者の視認可能な場所に、勧誘行為を拒絶する意思を示すステッカー等を掲示・貼付した場合は、事業者は訪問による勧誘をしてはならない(ステッカー方式のDo-Not-Knock制度)。

イ.電話勧誘販売
電話による勧誘行為を拒絶する意思を有する消費者が、予め電話番号を登録し、事業者はその登録があった電話番号に対して電話による勧誘をしてはならない(Do-Not-Call制度)。

これらの規制方法は、オプト・イン規制に比べれば緩やかなものであり、事業者の営業活動を制約する度合いはきわめて小さいものである。また、社会通念に照らしても、消費者が予め明示的に勧誘行為を拒絶しているのであるから、このような場合にまで事業者の勧誘機会を保護すべき理由がないという点は、容易に国民の理解を得られよう。

ところで、現行の特定商取引法は、訪問及び電話による勧誘を受けた消費者が勧誘にかかる契約を締結しない旨の意思を表示した場合には、当該消費者に対する継続勧誘及び再勧誘をしてはならないと定めている(同法第3条の2第2項、第17条)。しかし、消費者が単にステッカーを貼るなどして予め包括的に勧誘拒否の意思を表明していたとしても、そのような行為は、ここでいう「契約を締結しない旨の意思表示」とはみなされない(消費者庁「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針-再勧誘禁止 規定に関する指針-」)。

このような現行制度のもとでは、消費者が事前に勧誘を拒絶・回避する手段がないことから、結局、事業者の勧誘にその都度対応する必要があり、交渉力に劣る消費者を保護するための法制度として、不十分である。したがって、本声明において求めるのは、あくまで「事前の」オプト・アウト規制である。ステッカーや電話番号の登録など、消費者の事前かつ包括的な意思表明に対して勧誘禁止効を付与するのでなければ、規制の目的は達成できない。

3 実効性を確保するための制度構築

上記いずれの制度を導入するにしても、制度の実効性を確保するため、違反に対しては、行政処分及び罰則を設けることが必要である。

また、これらに違反した事業者に不当な利得を保有させず、被害者の財産を回復するためには、規制に反する勧誘行為を経て締結された契約の無効、取消または解除を主張することができるよう、民事規定を導入することが必要である。