声明・談話

いわゆる「谷間世代」の貸与金返還期限の猶予を求める会長声明

2018年(平成30年)5月16日
和歌山弁護士会
会長 山下 俊治

1 従来,司法修習生に対しては,司法修習の公共的役割に鑑み,国から戦後60年余にわたり給与が支給されていた。しかし,財政的事情を理由に平成23年11月(新第65期)からこの給費制が廃止された。そして,それ以降の司法修習生は,修習専念義務を負いながらも無給となり,代わりに貸与金の制度が設けられた。その結果,多くの司法修習生は,生活費や修習費用等をいずれ返還しなければならない貸与金で賄わなければならなくなり,修習に専念した結果,修習中に多額の負債を負うという極めて不安定な身分となった。

2 このような事態を受け,平成29年4月19日,司法修習生に対して修習給付金を支給する制度を創設する改正裁判所法が成立した。これにより,第71期司法修習生から修習給付金(基本給付金月額13万5000円・住居給付金月額3万5000円)の支給が開始され,現在の司法修習生は,経済的負担が軽減された中で研鑽に励むことが出来ている。
 もっとも,同制度では,司法修習生が修習に専念できる経済的基盤として未だ十分とはいえず,今後も増額に向けた検討が必要である。

3 他方で,より重大な課題は,上記裁判所法の改正によっても,無給での司法修習を終了した新第65期から第70期の修習生(いわゆる「谷間世代」)に対して何らの対策もなされておらず,「谷間世代」と他の世代との間に著しい不公平が生じており,その不公平が解消されないまま新65期の貸与金返還期限が本年7月25日に迫っているということである。

4 そもそも,司法修習における給費制は,「司法」の担い手である法曹(裁判官・検察官・弁護士)の使命や公共性に鑑み,国に法曹を養成する責務があることから採用された。司法修習生は,修習専念義務を負い,他の公務員と同様に兼業を禁止されている。これらの趣旨や義務は,「谷間世代」とその他の世代との間で何ら異なることはない。にもかかわらず,上記のとおり,「谷間世代」のみ無給とされ,貸与金の返還債務を含めた多額の経済的負担を強いられていることは,著しく不公平な事態である。
 特に,大学や法科大学院の学費のための奨学金返済の負担などから,「谷間世代」の中には,貸与金の返済が困難なものが一定数存在するといわれている。また,返済が可能であったとしても,そのような者にとっては負担が重くのしかかり,返済のための経済的活動を優先せざるを得なくなる結果,人権擁護活動等の公益的・社会的な活動を行う経済的なゆとりがないという状況に陥りかねない。しかも,「谷間世代」の数は全法曹の約4分の1(約1万1000人)を占めており,これからの司法を担う若手法曹の意欲的な活動を妨げることは,今後の司法,ひいては国民に重大な影響を与えかねない。
 このような事態を受け,上記裁判所法改正の審議過程でも,与野党を問わず多数の国会議員から,「谷間世代」救済の必要性が訴えられた。にもかかわらず,具体的な是正策は何ら講じられておらず,この状況下で新第65期の貸与金の返還が開始されることは,大きな問題であると言わざるを得ない。

5 以上から,当会は,政府及び国会に対し,「谷間世代」へ修習給付金相当額を支給する等,上記不公平を解消する是正措置が講じられるまでの間,貸与金の返還については一律にその返還期限を猶予することの検討を求める。