声明・談話

高度プロフェッショナル制度の創設に反対する会長声明

2018年(平成30年)6月8日
和歌山弁護士会
会長 山下 俊治

平成30年5月31日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(以下「本法案」という)が、衆議院で賛成多数で可決され、参議院に送付された。

同法案では、高度プロフェッショナル制度と呼ばれる制度の導入が盛り込まれている。高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する労働者について、対象となる労働者の合意や、一定額以上の年収(報道によれば、1075万円以上とされる見込み)を得ていること等を条件として、労働基準法の労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用を除外するというものである。同制度は、平成27年通常国会に提出された労働基準法改正案にも盛り込まれていたものの、実質審議が行われないまま、衆議院解散に伴い審議未了のため廃案となっていたものである。

当会は、平成27年5月19日付け「労働時間法制の規制緩和に係る労働基準法改正に反対する会長声明」において、高度プロフェッショナル制度は、「現行の労働時間規制を一切適用しないとするものであり、対象となる労働者が休日・休憩を取らずにどれだけ働いたとしても、使用者は割増賃金の支払いを免れ、その結果、長時間労働に歯止めをかけることができなくなるおそれがある」として、同制度の導入に反対した。このような問題点は、今国会に提出された法案でも解消されていない。

アメリカ連邦会計検査院(GAO)の連邦議会への1999年報告書によると、高度プロフェッショナル制度のモデルとされているアメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」では、エグゼンプト労働者(労働時間規制対象外の労働者)はノン・エグゼンプト労働者よりも長時間労働を行っている者の割合が顕著に高くなっていることが明らかとなっている(GAO “White-Collar Exemption in the modern work place”,1999,figure 4)。政府は、この制度を「時間ではなく成果で評価する働き方」と述べるが、現行法でも成果で評価される賃金体系を契約内容とすることは可能である。労働時間規制を全面的に排斥する高度プロフェッショナル制度を創設する立法事実、正当化根拠は、極めて疑わしい。

近時、日本でも長時間労働に起因する過労死・過労自殺の多発が世間の耳目を集め、労働者の心身の健康を保護する要請が高まっているにもかかわらず、高度プロフェッショナル制度の導入はそれとは相反するものである。

よって、当会は高度プロフェッショナル制度の創設に強く反対するものである。