声明・談話

難病医療費助成制度における重症度分類の撤廃を求める会長声明

2018年(平成30年)9月14日
和歌山弁護士会
会長 山下 俊治

2015年1月に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律」(以下「難病法」という。)は、医療費助成の対象疾病の数を増加させる一方、軽症者を助成対象から原則として除外することとした。ただ、難病法施行前から助成を受けてきた患者については、2017年末まで、病状の軽重に関わらず助成を続ける3年間の経過措置がとられてきた。今般、厚生労働省による集計の結果、経過措置適用者約72.7万人のうち、引き続き認定を受けるのは約57.7万人(79.4パーセント)に留まり、約15万人が不認定もしくは申請なしであることが明らかとなった。

難病法は、疾患ごとに定められた重症度分類という基準を満たした重症者のみを医療費助成の対象とする。しかし難病は、発症初期の段階でどれだけ充実した治療を受けたのか否かで、その予後が大きく変わる。重症度分類は、医療を受けながら軽症状態を保ち、ようやく社会生活を営んでいる患者を切り捨てることを意味し、新たな制度の谷間を生むものである。このような重症度分類は、すべての難病者に保障された適切な医療を受けながら地域社会で平等に生活する権利を軽視するものである(当会2013年12月12日付け「難病患者の基本的人権を尊重する支援制度の構築を求める会長声明」)。

報道によれば、実際「軽症」と認定されて助成を打ち切られた場合、①毎回の医療費が増えて生活を圧迫することに加え、②毎年の更新時期に行政から送られていた難病に関する情報が受領できなくなるケースや、③指定難病に罹患していれば障害福祉サービスの対象となるところ、医療費助成の受給者証が発行されなくなるために、それまで利用していた障害福祉サービスも同時に打ち切られるケースも生じるなど、難病者に生活上、療養上の深刻な悪影響がもたらされている。このような不利益を被る難病者が約15万人も生じる事態は「難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保及び難病の患者の療養生活の質の維持向上を図り、もって国民保健の向上を図る」(難病法1条)という法の目的に逆行する事態と言わざるを得ない。

更に、医療費助成の更新時に提出される診断書(臨床調査個人票)は、助成対象該当性判断に用いられるほか、指定難病の患者の診断基準や重症度分類等に関する臨床情報等(難病法基本方針では「指定難病患者データ」という。)として、希少疾患の治療研究に用いられる臨床データの中核をなす重要な資料となる。軽症者を医療費助成の対象から外せば、軽症者の指定難病患者データが集約されず、ひいては治療研究に支障を来すこととなる。これも、法の定める上記目的や、「難病の克服」を掲げた基本理念(難病法2条)に明らかに逆行する結論しか生まない。

したがって、国は、症状の軽重にかかわらず、等しく基本的人権を享有する個人として尊重し合いながら生きることを保障する医療費助成制度を構築すべきであり、重症度分類を一刻も早く撤廃すべきである。

難病法は、その附則において、法律の施行後5年以内を目途として、法の施行の状況等を勘案しつつ、必要な見直しをするとしている。かかる施行後5年の見直しにおいては、国は難病者の生活を保障する観点から、医療費助成のあり方を含め、抜本的な法改正を行うべきである。