声明・談話

クレジット過剰与信規制緩和に反対する会長声明

2019年(令和元年)8月23日
和歌山弁護士会
会長 廣谷 行敏

経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は、2019年(令和元年)5月29日、クレジットカード等の交付・付与時の過剰与信規制について、①クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合には、ア)支払可能見込額調査義務(割賦販売法30条の2第1項)を免除すること、イ)指定 信用情報機関の信用情報について使用義務(同法第30条の2第3項)を 免除すること、②極度額10万円以下のクレジットカード等の交付・付与時には、指定信用情報機関の信用情報についての使用義務及び基礎特定信用情報の登録義務(同法第35条の3の56第2項及び第3項)を免除する方向性の中間整理を公表した。

しかし、このような過剰与信規制の緩和は、多重債務防止のための規制の実効性を失わせることになるため、当会はこれに反対 する。

1 クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」の選択肢を認めることは、2008年改正割賦販売法の趣旨、すなわち、業界全体として統一的な算定方法による支払可能見込額調査義務を課すことにより多重債務問題を業界全体で防止するという趣旨を没却することになりかねない。また、仮にこれを認めるとしても、支払可能見込額調査義務に代替しうるだけの客観的かつ 合理的な審査方法であるか否かを、行政庁等の第三者が事前に確認するなどの措置を講じる必要がある。

2 2019年3月12日開催の小委員会において、クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合においては基礎特定信用情報の登録義務を免除することが提案されていたが、中間整理では、かかる場合についても基礎特定信用情報の登録義務を維持する方向性が示された。 多重債務防止のために登録義務を維持する方向性が示されたことは妥当である。
しかし、多重債務問題を防止するためには、基礎特定信用情報の登録義務だけでなく、指定信用情報機関の信用情報使用義務も維持すべきである。クレジットカード会社は、信用情報を使用することにより、他社における取引内容も含めたクレジット債務全体を把握することができ、より適切な与信審査を行うことが可能となるのであって、信用情報の使用義務は、まさに過剰与信防止へ直接的に寄与することになるからである。

3 極度額10万円以下の与信審査にあたって指定信用情報機関の信用情報の使用義務及び基礎特定信用情報の登録義務を免除することについては、現行法のもとでもすでに少額与信への特例措置(極度額30万円以下のクレジットカード発行時に一定の要件のもとで支払可能見込額調査義務を免除する)が用意されている。したがって、これをさらに緩和する必要性は認められない。
また、2022年4月施行の民法改正により成年年齢が18歳に引下げられることから、今後、若年者の多重債務や消費者被害の増加が懸念されている。少額サービスであったとしても、複数サービスの利用が重複し得ること等を考慮すれば、少額与信であるからといってこれらの義務を緩和することはきわめて危険である。
そして何より、指定信用情報機関に信用情報を全件登録・使用する仕組みは、他社における取引内容を含めたクレジット債務全体を把握することで適切な与信審査を行うという、多重債務防止セーフティーネットとしての役割を果たしてきた制度である。極度額が小さいというだけの理由で安易に義務を免除し、この制度を崩壊させることがあってはならない。

よって、当会は、過剰与信規制の緩和に反対する。