声明・談話

東京高検検事長の定年延長をした閣議決定の撤回を求め、検察庁法改正案に反対する会長声明

2020年(令和2年)4月24日
和歌山弁護士会
会長 山崎 和成

1. 政府は、本年1月31日の閣議で、本年2月7日に63歳で定年退官することになっていた東京高検検事長の勤務(定年)を6ヵ月延長することを決定した(以下「本件閣議決定」という。)。

その後の国会答弁によると、政府は本件閣議決定に先立ち、これまで「検察官には国家公務員法の勤務延長を含む定年制は適用されない」としてきた政府、人事院の解釈を「検察官にも国家公務員法81条の3の勤務(定年)延長の規定が適用される」と変更したとされている。

2. しかし、検察官の定年を国家公務員法の規定によって延長することは、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法22条及び32条の2に違反するものである。

すなわち、国家公務員法は、定年による退職規定の適用について「法律に別段の定めのある場合を除き」としており(81条の2第1項)、検察庁法22条が「検事総長は年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」との「別段の定め」をし、さらに検察庁法32条の2は、同法22条(検察官の定年規定)について「検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法(国家公務員法)の特例を定めたもの」と規定しているのであるから、検察官には国家公務員法81条の2の定年規定の適用がないことは明らかである。そして、同法81条の3の定年延長規定が「前条(81条の2)第1項の規定により退職すべきこととなる場合」に限定していることから、検察官に同法の定年延長規定が適用されないこともまた明らかである。

そのため、これまで国家公務員法81条の3第1項は検察官には一度も適用されてこなかったのである。

3. そもそも、検察庁法において、検察官が定年に達した時に一律に退官するものとし、定年延長規定を置いていないのは、「検察官の職務と責任の特殊性」に基づいている。すなわち、検察官は行政官ではあるものの、刑事訴訟法上の強大な捜査権限を与えられ、起訴権限を独占し、裁判所に法の正当な適用を請求し、裁判の執行を監督するという司法の一翼を担い(検察庁法4条)、準司法的職務を担うことから、政治からの独立性と中立公正の確保が特に強く要請されるためである。それゆえ、検察官は独任制の機関とされ、身分保障が与えられ、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するために定年延長や再任用を認めてこなかったのである。

4. さらに、政府は本件閣議決定による解釈変更に対する批判がある中で、本年3月13日に検察庁法改正案を含む国家公務員法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。

この検察庁法の改正案は、他の国家公務員と同様に、検察官の定年を65歳に引き上げた上で、いわゆる役職定年をもうけ、63歳を超えて次長検事、検事長、検事正、上席検察官にはなれないとしつつ、内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めたときは役職定年を超えて、さらに検事総長や上記役職者が65歳の定年に達した後も、同様の事由により定年さえも超えて勤務を継続できるようにするものである。

これまでも検事総長、次長検事、検事長のいわゆる認証官は、民主的基盤を有する内閣が任命するものであったが、慣行として検察庁内の判断が尊重され、政治の恣意的な介入が抑止されてきた。しかし、この改正案によると、内閣又は法務大臣の裁量によって、検事総長等役職に就いている検察官の中から時の政府の意向に沿う検察官の役職定年等を延長することで検察人事に大きく介入することが可能となり、準司法的職務を担う検察官の政治的中立性、独立性が脅かされる危険性が高くなる。またそのような事態となれば、検察に対する国民の信頼を失うことにもなりかねない。

5. よって、当会は、検察庁法に違反する東京高検検事長の定年延長の本件閣議決定の撤回を求めるとともに、国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち、検察官の定年ないし勤務延長に関する検察庁法改正案に反対するものである。