声明・談話

最低賃金額の大幅な引き上げと中小企業支援の強化を求める会長声明

2020年(令和2年)7月15日
和歌山弁護士会
会長 山崎 和成

2019年7月31日、中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、2019年度地域別最低賃金額改定の目安について答申を行った。同答申によると和歌山県の目安は26円の増額であった。同年8月5日、和歌山地方最低賃金審議会は、和歌山労働局長に対し、和歌山県最低賃金額について27円の増額とする旨の答申を行い、これを受けて和歌山県最低賃金額は時間額830円に改定された。

我が国における最低賃金制度とは、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とするものである(最低賃金法第1条)。

しかしながら、昨年の最低賃金額の引き上げ額は、「労働者の生活の安定」にも、「労働力の質的向上」にもつながるものではなく、不十分と言わざるを得ない。すなわち、時間額830円という賃金では、1日8時間、月22日働いたとしても、月収14万6080円、年収175万2960円であり、実際の手取額は、社会保険料等がこれから控除されるため、更に少なくなる。

この収入では、労働者の生活を維持することは極めて難しく、病気や怪我などに備えて貯蓄に回す金銭すらない。これでは、労働者が健康で文化的な生活を営んだうえで、最低限の資産を形成することなどできず、労働者の生活の安定及び労働力の質的向上を図ることなど、到底望めない。

今般、新型コロナウイルス感染症による政府の緊急事態宣言の影響により、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念も広がる中、最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論もある。

しかし、労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は、その収入だけではもともと日々生活するだけで精一杯で、緊急事態に対応するための十分な貯蓄をすることができていない。ここに根本的な問題がある。また、今般の新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない状況下において、小売店の店員、運送配達員、福祉・介護サービス従事者等の社会全体のライフラインを支える労働者の中には、最低賃金付近の低賃金で働く労働者が多数存在する。これらの労働者の労働に報い、その生活を支え、社会全体のライフラインを維持していくためにも最低賃金の引上げは必要である。

一方、最低賃金の引上げは中小企業の経営に大きな影響を与えることがありうる。中小企業に対しては、新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気悪化に備えた支援策が拡充されているところであるが、政府は、長期的継続的に中小企業支援策をより一層強化すべきであり、最低賃金の引上げが困難な中小企業のための社会保険料の減免や減税、補助金支給等の中小企業支援策の検討を進めるべきである。また、中小企業の生産性を向上させるための施策を有機的に組み合わせることや、これまで以上に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法を積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるよう努めることも重要である。

厚生労働大臣は、本年6月26日、中央最低賃金審議会に対し、2020年度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行い、本年7月頃、同審議会から答申が行われる見込みである。そして、その答申を参考にしつつ、各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定されることになる。

当会は2018年6月8日付け及び2019年6月19日付けで最低賃金額の大幅引き上げを求める会長声明を発出したところであるが、本年度の改定に際し、中央最低賃金審議会、和歌山地方最低賃金審議会、和歌山労働局長、及び政府に対し、労働者の生活が安定し健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、あらためて和歌山県最低賃金額の大幅な引き上げと中小企業支援の強化を求めるものである。