声明・談話

法制審議会答申に従った少年法改正に反対する会長声明

2021年(令和3年)2月10日
和歌山弁護士会
会長 山崎 和成

2017年(平成29年)3月以降、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関連)部会において、少年法の「少年」の年齢を18歳未満とすること並びに非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について議論が続けられてきた(諮問第103号)。その結果、法制審議会少年法・刑事法部会は、2020年(令和2年)9月9日に「取りまとめ(答申案)」を採択し、これを受けて、法制審議会総会は、同年10月29日、法務大臣宛ての答申(以下「答申」という。)を採択した。

現行少年法は、20歳未満の少年につき、軽微な非行であったとしても、全ての事件を家庭裁判所に送致し、調査官による社会調査や少年鑑別所による分析を通して、教育的見地から適切な処分を選択することとし、この制度が現在も有効に機能していることは法制審議会部会においても前提とされている。

今回の答申においても、18歳及び19歳の者については、「類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在である」と捉え、犯罪の嫌疑がある場合は全ての事件を家庭裁判所に送致した上で、家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所の鑑別を実施した上で処分を決定するとし、現行少年法に近い枠組みが維持されている。

しかしながら一方で、答申は、以下の点において、少年法の「健全育成の理念」(少年法1条)を後退させるものであり、問題があると言わざるを得ない。

1.18歳及び19歳の者の位置付けについて

答申では、18歳及び19歳の者を、少年法が適用される「少年」であると明確にせず、その位置づけや呼称については「今後の立法プロセスにおける検討に委ねる」とし、結論を出していない。

しかし、今回の答申における手続や処分は、18歳及び19歳の者が類型的に未成熟であり成長発達途上にあって可塑性を有する存在であることを前提としており、現行少年法に近い枠組みとなっていることに鑑みれば、18歳及び19歳の者についても、「健全育成」という少年法の理念が当然妥当するものである。

したがって、18歳及び19歳の者についても、従来どおり少年法の対象として「少年」と位置付け、少年法の適用対象であることを明確にすべきである。

2.いわゆる「原則逆送事件」の対象事件拡大について

現行少年法は、いわゆる「原則逆送事件」の対象を、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた」という重大な生命侵害事案に限定している(少年法20条2項)ところ、答申では、18歳及び19歳の者に対して、その範囲を、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役禁固(新自由刑)にあたる罪」にまで拡大している。

もっとも、この事件類型には、強盗罪や強制性交等罪などがあげられるところ、これらの罪は犯行態様や被害結果等犯情の幅が極めて広いものである。強盗罪について言えば、万引きが発覚して逮捕を免れようとして軽い暴行を振るった場合にも成立しうる。このような場合にも犯情を考慮せずに、この類型に該当するというだけで原則逆送となると、18歳及び19歳の者は、家庭裁判所において少年の更生に向けたきめ細かい調査や教育的手当を受ける機会が与えられずに、社会に復帰することとなり、保護処分による柔軟な処遇を行う余地を大きく制限してしまう。これは、立ち直りや再犯防止の観点からも逆効果である。

3.推知報道の解禁について

答申によれば、18歳及び19歳のとき罪を犯した者については、公判請求された場合、推知報道の禁止(少年法61条)が及ばないとされている。

推知報道が禁止されている趣旨は、未成熟で発達途上にある少年及びその家族の名誉やプライバシーを保護するとともに、少年の更生を図ろうとする点にあり、この趣旨は、公判請求された18歳及び19歳の者についても妥当する。

しかし、本人の実名等が報道されると、厳しい社会の目にさらされ、また、インターネット上では当該情報が半永久的に残されてしまい、少年の就労等社会復帰や更生にとっては重大な支障となる。さらに、公判請求された場合であっても、事件が家庭裁判所に移送されることもあり、この場合は非公開の手続で処分が決定されることになる。公判請求された段階で推知報道が認められてしまうと、その不利益は回復不可能である。

したがって、推知報道の解禁は、少年の健全な育成を阻害するものであり、容認できない。

4.ぐ犯の除外について

答申は、「罪を犯した18歳及び19歳の者を対象とする」としており、18歳及び19歳の者を「ぐ犯」の対象から除外している。

しかし、罪を犯していない18歳及び19歳の者についても、未成熟で善悪の区別が困難であったり衝動的に行動したりする傾向が強く、答申でも指摘されているその可塑性に鑑みれば、将来において犯罪行為に及ぶおそれのある場合には、「ぐ犯」として家庭裁判所による保護処分の対象として、立ち直りの機会を与えるべきである。

5.不定期刑の適用除外について

答申は、18歳及び19歳の者が公判請求された場合、不定期刑(少年法52条)の適用を除外することとしている。

もっとも、不定期刑は、少年が未熟で可塑性に富み、教育による改善更生が期待されることから、その処遇に弾力性をもたせるため規定されたものである。

そして、答申においても18歳及び19歳の者が類型的に未成熟であり可塑性を有すると認めている以上、少年法において不定期刑が設けられた趣旨は当然妥当する。

したがって、18歳及び19歳の者についても、不定期刑の適用を除外すべきではない。

6.結語

当会は、2015年(平成27年)8月14日、及び2019年(令和元年)8月23日に会長声明を公表し、少年法適用年齢引下げに一貫して反対してきたところである。

今回の答申では、罪を犯した18歳及び19歳の者に関し全件家裁送致を採用した点については、現行法に近い枠組みが維持されることとなった。他方で、18歳及び19歳の位置付け及び呼称について明確に少年法の適用対象とされていないこと、原則逆送事件の範囲拡大、推知報道の解禁、ぐ犯や不定期刑の対象除外など、大きな問題を含むものであり、少年に対する健全育成の理念を後退させる内容である。

よって、当会は、答申に従った少年法改正に反対する。