声明・談話

労働者の生活を支えコロナ禍の地域経済を活性化させるために
最低賃金額の引上げと中小企業支援の強化を求める会長声明

2021年(令和3年)7月7日
和歌山弁護士会
会長 田邊 和喜

新型コロナウイルスの感染拡大により、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念が広がる中、最低賃金の引上げが中小企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論が多数を占め、中央最低賃金審議会は、2020年度の地域別最低賃金の引上げ額について目安額の提示を見送った。これを受けて、2020年8月、和歌山地方最低賃金審議会は、1円の増額とする答申を行い、和歌山県最低賃金額は時間額831円にとどまった。

しかし、時間額831円では、月173.8時間(週40時間)働いた場合の1ヶ月の収入は14万4427円であり、手取額にすると僅か11万8142円(収入の81.8%)にしかならない。この点、2020年の和歌山地方最低賃金審議会における和歌山労働局賃金室の計算によると、生活保護水準は9万2762円とあり、最低賃金額の方が上回っているとするものの、この生活保護水準は健康で文化的な最低限度の生活を保障するものといえるのか、かなり疑問であり、適切な最低賃金額を考慮するうえで比較の対象とするのは相当ではない。

コロナ禍で地域経済が停滞している状況ではあるが、最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら地域経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。例えば、フランスでは、2021年1月に10.15ユーロ(約1320円)から10.25ユーロ(約1333円)に引き上げられた。ドイツでは、2021年1月に9.50ユーロ(約1235円)へ引き上げられ、さらに同年7月から9.60ユーロ(約1248円)へ、2022年1月に9.82ユーロ(約1277円)へ、同年7月に10.45ユーロ(約1359円)へ引上げとなることが決定された。イギリスでも、2021年4月から成人(25歳以上)の最低賃金が8.72ポンド(約1325円)から8.91ポンド(約1354円)に引き上げられた。このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の引上げが実現していることは、我が国でも参考となろう。

一方、最低賃金の引上げは、地域経済を支える中小企業の経営に大きな影響を与えかねないことも事実である。昨年来のコロナ禍で経済が停滞する中、経営基盤に深刻な打撃を受けている中小企業も多いことから、政府は、中小企業支援策をより一層強化すべきである。この点、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施しているが、中小企業にとって必ずしも使い勝手の良いものとはなっておらず、利用件数は少ない。そこで、諸外国で採用されているような、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策など、中小企業が最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、充分な支援策が講じられるべきである。

当会は、これまでも最低賃金額の引き上げと中小企業支援の強化を求める会長声明を発出したところであるが、本年度の改定にあたり、中央最低賃金審議会、和歌山地方最低賃金審議会、和歌山労働局長、及び、政府に対し、労働者の生活が安定し健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、改めて最低賃金額の引き上げと、中小企業支援の強化を求めるものである。