声明・談話

「敵基地攻撃能力」ないし「反撃能力」の保有に反対する会長声明

2023年(令和5年)3月10日
和歌山弁護士会
会長 山岡 大

1.政府は、2022年12月16日、新たな「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」を閣議決定し、他国のミサイル発射基地等を攻撃するための、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有や、他国の指揮統制機能等を広く攻撃の対象とすることになりかねない、いわゆる「反撃能力」を保有するという方針を明らかにした。さらに、そのために防衛力を抜本的に強化するとし、今後5年間で合計43兆円の防衛予算を組み、巡航ミサイルの改良、トマホークの取得など、長射程スタンド・オフ・ミサイルの保有、及びそれらを装着できる戦闘機の導入を計画している。

そして、政府は、我が国と密接な関係にある米国が攻撃を受けた場合、2015年9月に成立した、いわゆる安全保障法制に基づき、日本の存立が脅かされる等の事態(存立危機事態)に至ったと判断すると、我が国も米国と一体となって「敵基地攻撃能力」、「反撃能力」を用いて対処することを想定している。

2.政府は、この「敵基地攻撃能力」、「反撃能力」の保有について、「憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではない。」と述べる。
しかし、「戦力」の保持を禁じる憲法9条2項の下で自衛隊がとり得る実力の行使は、他国から我が国に武力行使があった場合に、これを排除するための必要最小限度のものに限られる(1972年政府解釈)のであり、他国の領域における武力行使は許されず、他国の領域に直接的な脅威を与える攻撃的兵器は、憲法が保有を禁ずる「戦力」に該当する。

 したがって、敵基地及び他国の指揮統制機能等への攻撃ができる兵器を保有し、米軍と一体となって他国からの武力攻撃に対処しようとすることは憲法9条2項に違反し許されない。また、長年にわたって確立された憲法解釈を、憲法改正手続を採ることなく変更することは、立憲主義に反するといわざるを得ない。

 さらに、我が国に対する武力攻撃が行われていない段階で、集団的自衛権の行使として、他国の領域で攻撃的兵器を使用することは、我が国からの先制攻撃と捉えられ、我が国への反撃を招くことが予想される。

3.政府は、「我が国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除できるようにする必要がある。このため『スタンド・オフ防衛能力』と『統合防衛能力』を強化する。」等の防衛上の機能・能力を強化すると述べる(国家防衛戦略)。
しかし、このような考え方は、抑止力の名の下に軍備の増強競争を招きかねず、ひいては、偶発的な軍事的衝突を誘発し、我が国が戦場となることも懸念される。

4.よって、当会は、我が国が「敵基地攻撃能力」、「反撃能力」を保有することに反対し、政府が憲法9条と前文の国際協調主義に基づく平和外交により、とりわけ近隣諸国との武力衝突を生じさせないよう尽力することを切望する。