声明・談話

「谷間世代」への一律給付実現を求める会長声明

2023年(令和5年)3月10日
和歌山弁護士会
会長 山岡 大

1.司法権は、国の三権の一翼であり、その担い手である法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)の養成制度である統一司法修習は、1947年(昭和22年)に開始された。そして、これと同時に、司法修習生に対して、公務員に準じた給与が支払われる給費制が採用された。司法修習生は、修習専念義務(裁判所法第67条2項)を課されたうえ、「高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるよう努めなければならない」(司法修習生に関する規則第4条)とされており、司法の担い手としての公共的使命に由来するこれらの責務をまっとうするためには、給費制は不可欠の前提であったといえる。

2.しかしながら、司法試験合格者3000人構想のもとで、2011年(平成23年)11月改正裁判所法施行により給費制は廃止され、司法修習生は1年間の司法修習の間無給となり、代わりに、申請により司法修習中の生活のための資金が貸与される「貸与制」が導入された。これにより、司法修習生は、上記の義務等はそのままに、給与がないばかりか、司法修習期間中の生活費のために貸与を利用した者は、法曹としてのスタート時点で約300万円の負債を抱えることとなり、また、貸与を利用しなかった者は、貯蓄の切り崩しか親族等の援助によって司法修習期間中の生活費を賄わなければならないこととなった。
 このような制度変更は、三権の一翼である司法の担い手として公共的使命を負う法曹の、養成段階での生活を不安定にする、極めて不合理なものだった。

3.その後、日本弁護士連合会及び全国の弁護士会が給費制復活を求めて種々の活動を行った結果、給費制廃止は見直され、2017年(平成29年)4月の裁判所法改正により、新たに、修習給付金制度が創設された(なお、この制度による給付が十分かどうかは引き続き議論を要する)。
 ただ、貸与制の時期に司法修習を終えた者(司法修習新第65期から第70期)に対しては何らの措置も講じられなかったことから、かつての給費制と現在の給付金制度との「谷間」に、無給の世代(いわゆる「谷間世代」)を残すという、制度的な不備が生じてしまった。

4.谷間世代は、6年間で約1万1000人、法曹全体の約4分の1を占めている。司法の担い手である法曹として、公共的使命を負い、社会の中で期待される役割を果たすべき立場にあることについて、前後の世代の法曹となんら異なるところはない。それにもかかわらず、現在、法曹6年目から11年目にあたる谷間世代は、貸与を受けた資金について毎年返済しなければならない状況にあるなど、司法修習の時期のみを理由として、前後の世代との間に著しい不平等・不公平が生じており、それが放置されているのである。
 このような不平等・不公平が是正されないままとなっていることが不合理であることはいうまでもない。

5.以上の観点から、谷間世代に対しては、その不合理を是正すべく、国費をもって、早急な補填を行うことが必要である。この点、2019年(令和元年)5月30日の給費制廃止違憲確認訴訟名古屋高裁判決においても、「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」という指摘がなされているところである。

 また、谷間世代に対する一律給付を実現するための日本弁護士連合会や各地の弁護士会による活動に対して、これまで与野党問わず多くの国会議員から応援のメッセージが寄せられており、その総数は、2023年(令和5年)3月3日までに、全国会議員総数(713人)の過半数を超えた。メッセージをお寄せ頂いた国会議員の皆様にはここに感謝と敬意を表する。

6.当会は、2018年(平成30年)5月にも「いわゆる『谷間世代』の貸与金返還期限の猶予を求める会長声明」を発出するなど、これまでも谷間世代に生じた不合理を是正すべく活動してきたものであるが、上記の情勢に鑑み、ここに、改めて、国に対して、「谷間世代」を生じさせた制度的な不備を是正するため、司法修習第65期から第70期の司法修習修了者に対し、新給付金相当額またはこれを上回る金額の一律給付を実現するよう強く求める。