声明・談話

特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えるよう求める会長声明

2023年(令和5年)4月28日
和歌山弁護士会
会長 藤井 友彦

少年は、未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在である。 そのため、少年の健全育成を図ることを目的とした少年法は、報道等による少年のプライバシー侵害が、少年の成長発達を妨げ、更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きいことから、少年の氏名、年齢、容貌等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができる記事または写真を新聞紙その他出版物に掲載すること(以下、「推知報道」という。)を禁止している(第61条)。

他方で、令和4年4月1日に「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)が施行され、18歳または19歳の少年(以下、「特定少年」という。)については、公訴提起がなされた場合に、従来の推知報道の禁止が解除されることとなった(第68条)。

もっとも、いったん推知報道がなされると、その後、インターネット等で当該情報が拡散し、半永久的に残存することとなり、その結果、当該少年は、長期間にわたり社会から阻害され、更生や社会復帰、社会への適応が著しく困難となる。

この点、改正少年法も、20歳未満の者を「少年」とする少年法第2条1項本文には変更を加えておらず、特定少年に対しても、従前と同様に少年法の適用対象として第1条の「健全育成理念」が及ぶ。そのため、たとえ特定少年であったとしても、少年の健全育成の理念に鑑み、推知報道禁止の解除には、慎重な判断が当然に求められる

少年法改正にかかる参議院法務委員会の附帯決議においても、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」との指摘がなされている。

令和5年2月に大阪府内で特定少年が起こしたとされる強盗致傷等事件について、令和5年4月28日、和歌山家庭裁判所は検察官送致決定をした。 今後、当該事件が公訴提起される可能性が高く、その場合、特定少年の推知報道が可能となる。

しかし、上述のとおり、推知報道は、少年の健全育成を阻害するおそれが極めて高い。

そこで、今般、検察官送致決定がなされたことを受け、当会は、①検察庁に対し、推知報道が少年の健全育成及び更生可能性に与える影響が大きいことに鑑み、少年法第68条の規定にかかわらず、実名等の公表を控えるよう求めるとともに、②報道機関に対しても、仮に公訴提起後に検察庁により特定少年の実名公表がなされた場合にも、少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険を避けるため、推知報道を控えるよう求める。