声明・談話

労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために最低賃金の引上げと中小企業支援の強化を求める会長声明

2023年(令和5年)7月12日
和歌山弁護士会
会長 藤井 友彦

近々、中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、地域別最低賃金の目安について答申する予定である。この答申を受けて、和歌山地方最低賃金審議会は、和歌山労働局長からの諮問を受け、和歌山県における最低賃金について答申を行い、これを踏まえて地域別最低賃金が決定される。

昨年は、8月2日、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について答申を行い、公益委員見解として都道府県を4つのランクに分け、31円あるいは30円の増額が示された。そして、8月5日、和歌山地方最低賃金審議会は、和歌山労働局長に対し、和歌山県最低賃金について1時間889円(30円増額)とする旨の答申を行い、10月1日に時間額889円に改正された。近畿では、大阪府は1023円、京都府は968円、兵庫県は960円、滋賀県は927円、奈良県は896円であって、和歌山県は最も低く、大阪府とは134円の開きがある。

我が国における最低賃金制度とは、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とするものであり(最低賃金法第1条)、憲法第25条の生存権を実質的に保障する制度である。

しかしながら、時間額889円では、月173.8時間(週40時間)働いたとしても15万4508円である。この収入では、労働者の生活を維持することは極めて難しく、病気や怪我などに備えて貯蓄に回す金銭すらない。それにウクライナ情勢も相まって物価の急激な上昇が続いており、労働者が健康で文化的な生活を営み、労働者の生活の安定及び労働力の質的向上を図ることは喫緊の課題である。

この点、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023について」(令和5年6月16日閣議決定)(以下「骨太の方針2023」という。)において、「物価高に打ち勝つ持続的で構造的な賃上げを実現する」、「最低賃金の引上げや同一労働・同一賃金制の施行の徹底と必要な制度見直しの検討等を通じて非正規雇用労働者の処遇改善を促し、我が国全体の賃金の底上げ等による家計所得の増大に取り組む。」としており、この方針は評価できるものである。そして、最低賃金については、「今年は全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う。」としている。この全国加重平均1,000円という金額自体、低いと言わざるを得ないが、少なくとも早期にこれが達成されることは重要である。また、和歌山県の最低賃金が近畿で最も低いことから、人口減少傾向が続いている和歌山県の労働力がさらに県外に流出するという悪循環を招きかねず、最低賃金の引き上げは、新型コロナウイルス感染症も相まって停滞している地域経済を活性化させる効果もある。

一方、最低賃金の引上げは、地域経済を支える中小企業の経営に大きな影響を与えかねないことも事実である。政府は骨太の方針2023において、中小企業等の賃上げの環境整備については、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇等の強化を行うなどとしており、十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能とするような法規制をすることなどの支援策も有効であると考えられる。

当会は、これまでも最低賃金の引き上げと中小企業支援の強化を求める会長声明を発出してきたが、本年度の改定にあたり、和歌山地方最低賃金審議会、和歌山労働局長及び政府に対し、労働者の生活が安定し健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、改めて最低賃金の引き上げと中小企業支援の強化を求めるものである。