声明・談話

「オンライン接見」及び「オンライン傍聴」の実現に向けた議論を求める会長声明

2023年(令和5年)7月12日
和歌山弁護士会
会長 藤井 友彦

1 はじめに

現在、法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「本部会」という。)において刑事手続のIT化の議論が進められている。本部会は、情報通信技術のめざましい進展やその普及に伴い、現行の刑事手続において、情報通信技術を活用することを検討するものであり、本部会に先立つ検討会の取りまとめ報告書にもあるように、刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続の機能をより一層強化し、国民の負託に応えるものとする上で極めて重要な意義を有するものであるといえる。そして、本部会の論点項目として、「被疑者・被告人との接見」や「公判審理の傍聴」も掲げられており、ビデオリンク方式(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)や被害者等が映像と音声の送受信により公判審理を傍聴する制度(以下「オンライン傍聴」という。)が検討対象となっているものの、残念ながらこれまでに十分な議論が尽くされているとはいえない状況にある。

2 オンライン接見について

(1) 身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、弁護人等の援助を受けることは極めて重要な権利である。憲法第34条前段は弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受けて刑事訴訟法第39条1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。

情報通信技術の発展により、非対面の当事者間において、オンラインで接続してリアルタイムで映像と音声を送受信し、顔を見ながら意思疎通を行う技術及びその社会基盤は汎用化しており、今や社会生活・日常生活の様々な場面で活用されている。こういった現在の状況下においては、身体拘束場所から遠隔地にいる弁護人が被疑者・被告人とオンライン接見することは、現実的な手段であるといえる。

(2) 特に、身体を拘束された被疑者が、自白や不利益供述を強要され、あるいは黙秘権を侵害されるような取調べを受ける実態は現在でもあり、「自己に不利益な供述を強要されない」という憲法上の権利(憲法第34条1項)は被疑者に十分に保障されているとはいえない。そのため、被疑者の憲法上の権利の保障という観点から、迅速な弁護人接見を可能とする手段として、オンライン接見を実現する必要性は高い。

(3) また、当会が存する和歌山県は対応する面積が非常に広く、弁護士の多くが県北西部の和歌山市に事務所を有している一方、例えば、県南部の田辺警察署、新宮警察署のような、管轄地域内に弁護士が数人しかいない留置施設が存在する。そこで、和歌山市に事務所を置く弁護士が上記警察署管内の事件について弁護人に選任されることもよくあるものの、これらの留置施設に接見に行くためには、その往復だけで数時間を要することとなり、弁護人による迅速な接見の実現が難しい事態となっている。これは、近年、警察署の統合等により留置施設が減少している現実に鑑みると、より深刻な問題となっている。オンライン接見は、弁護人が、このような遠方の留置施設に身体拘束された被疑者・被告人と迅速な接見を行うことを可能にする手段として、極めて有用である。

他方で、遠方の留置施設に身体拘束された被疑者が、起訴後、和歌山市内の大阪刑務所丸の内拘置支所に移送されることがある。このような場合、捜査段階では、地元の弁護士が弁護人に選任されて弁護活動を行い、起訴後は、和歌山市内の弁護士が弁護人に選任される運用(リレー方式)が行われているが、同支所においてオンライン接見が実施されれば、起訴後も引き続き、地元の弁護士が弁護人として活動することができる可能性が広がり、弁護方針の一貫性の観点から、被疑者・被告人の防御活動の充実に資するものと考えられる。

(4) オンライン接見については、本部会の議論の中で、設備や予算の問題が指摘されているところであるが、新たな設備の整備等が必要なのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に該当することであって、被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も当然に国の責任において整備されるべきである。そして、本部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、捜査機関の利便性のみではなく、被疑者・被告人の人権保障を最大限拡充する観点においても、オンライン接見を可能とする物的設備や人的体制を整え、その予算措置を拡充する議論が十分に尽くされなければならない。

具体的には、オンライン接見の権利性を認めた上で、上記物的設備・人的体制を整備する具体的な期限を設け、その期限に向けて段階的に、例えば、オンライン接見の必要性が高いと思われる、管轄地域内に弁護士が数人しかいない留置施設や、あるいは大阪刑務所丸の内拘置支所等から優先して上記設備や体制を整えるなどといった議論を尽くすべきである。

なお、秘密交通権の保障のない制度は憲法で保障する被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を没却するものである。このような制度の検討は論外であり、オンライン接見であっても弁護人との秘密交通権が保障された接見制度でなければならないことは当然である。

3 オンライン傍聴について

(1) 憲法第82条1項は裁判の公開を定め、さらに、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「付随措置法」という。)第2条においては、被害者等に優先的に裁判を傍聴できる制度が認められている。これは被害者等が刑事事件の審理の状況及び内容について深い関心を有することから設けられたものであり(第1条)、実務上は、同一法廷内の傍聴席の一部を裁判所が確保するという運用がなされている。

(2) しかし、実際は、同一法廷内で公判審理を傍聴することができない被害者等が存在する。

まず、被害者等の心理的状況から同一法廷で傍聴できない場合が挙げられる。被害者参加制度の対象事件ではない場合、被害者等が事件の内容を知るためには傍聴するほかないし、対象事件であっても、当然参加を強制されるものではない。現在、本部会においてオンラインによる被害者参加を認める方向の議論がなされており、その点は評価できる。しかし、「事件の内容を知りたいのならオンラインによる被害者参加をすれば良い」というものでは、決してない。被告人に対する恐怖や、被告人に自分の存在を認識されたくないという思いから、被害者が同制度の利用を躊躇することは多い。このとき事件内容を知るには傍聴するほかないが、特に性犯罪被害者等、被告人と同一法廷内に所在することや他の傍聴人から姿を見られることに耐えられず、傍聴を諦めるケースは多く存在する。

加えて、物理的な問題で傍聴できない場合も存在する。被害者多数の事案では被害者や遺族等の数が多くなり、さらに社会の耳目を集める裁判であるので報道機関に対する傍聴席の確保も必要となることから、被害者等であっても裁判所の物理的な設備の問題で傍聴席に入ることができず、自身が被害を受けた裁判の内容を知ることができないという現状がある。

こういった場合に、法廷とは別に被害者等の所在場所を指定し、同所と法廷をオンラインで接続し、オンライン傍聴を実施する必要性は極めて高い。

(3) オンライン傍聴については、本部会の中で、裁判所の訴訟指揮権や法廷警察権を担保できないのではないか、また、他の裁判手続の公開の在り方との関係で、刑事事件の被害者等だけに他の者と異なる傍聴方法を認める根拠は何か、などといった懸念が示されているところである。

しかし、前者については、例えば、被害者等の所在場所を同一裁判所の別室と指定して同所に裁判所職員を配置し、裁判長はモニター画面及び同職員を通じて同所の様子を確認することで問題はないと考えられるし、後者については、その根拠がまさに、付随措置法が設ける優先傍聴の制度、そして、情報通信技術の発展なのである。付随措置法制定当時は、同一法廷内での傍聴しか考えられなかったものが、現在、情報通信技術の進展によりオンラインでの傍聴も考えられるようになった。そして、既に現在、そのための社会基盤が汎用化し、実際、日常的にオンラインによる通信が活用されるに至っており、今後も進展を続けることが明らかである。そういったことからすると、同一裁判所の別室と法廷をオンラインで接続し、被害者等にオンライン傍聴等を認める選択肢を認めることは、付随措置法にIT化を適用する当然の帰結であるともいえる。

(4) このように、オンライン傍聴の可否については、被害者等の思いを汲んで付随措置法が制定された、その趣旨に立ち返り、その実現に向けた議論がなされるべきである。

4 さいごに

冒頭に述べたとおり、刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続の機能をより一層強化し、国民の負託に応えるものとする上で極めて重要な意義を有するものであって、オンライン接見、オンライン傍聴、そのいずれにおいても、情報通信技術の発達した現代における司法に対する信頼に応え、国民の負託に応えるものでなくてはいけない。

こういった点からすると、いずれの論点においても、未だ十分に議論が尽くされたとは言えず、これらの実現に向けた十分な議論が尽くされるべきである。