声明・談話

「大崎事件」第4次再審請求特別抗告について、最高裁判所に、再審請求棄却決定を破棄自判し再審開始決定をするよう求める会長声明

2023年(令和5年)8月9日
和歌山弁護士会
会長 藤井 友彦

福岡高等裁判所宮崎支部は、2023年(令和5年)6月5日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、請求人の即時抗告を棄却し、鹿児島地方裁判所の再審請求棄却決定を維持する決定をし、現在、請求人は最高裁判所に特別抗告をしている。

大崎事件は、1979年に鹿児島県曽於郡大崎町で起こったとされる殺人・死体遺棄事件である。犯行を裏付ける客観的証拠はほとんどなく、元被告人の原口(当時中村)アヤ子さん(以下、「原口さん」という)は事件当初から一貫して犯行を否認していた。それにもかかわらず、原口さんは、「共犯者」とされた親族の供述を主な証拠として、「被害者」を絞殺したとされ、懲役10年の判決を受けた。しかし、「共犯者」とされた(元)夫、義弟および甥の3人は、いずれも知的障害を抱えた、いわゆる「供述弱者」であり、しかも、当初は、3人とも犯行を否認していた。原口さんは、供述弱者の任意にされたものでない疑いが十分に残る自白で有罪とされた。

満期出所後も原口さんは無実を訴え、これまで、第1次再審請求審、第3次再審請求審、同即時抗告審と、3度にわたり再審開始決定がなされた。しかし第3次再審請求の即時抗告審に対する検察官の特別抗告を受けた最高裁判所第一小法廷は、2019年(令和元年)6月25日、第3次再審請求特別抗告審における検察官の主張は法定の抗告理由にあたらないと判断しながら、書面審査だけで、しかも、弁護団に反論の機会を与えないまま、職権により、地方裁判所、高等裁判所の再審開始決定を取り消して再審請求を棄却する決定をした。

第4次再審請求審では、「被害者」の死亡時期等が争点となり、弁護団は、高度救命救急センター長の鑑定書などを提出した。これらの証拠は、「被害者」は側溝への転落事故によって致命的な傷害を負い、「被害者」が近隣住民に連れられて帰宅した頃には死亡していた可能性が高く、「被害者」の帰宅後に原口さんらが殺害したものではないことを明らかにするものであった。

第4次再審請求審である鹿児島地方裁判所は、上記鑑定書によって確定審において「被害者」の死因を頸部圧迫による窒息死と推定した法医学鑑定書(以下「旧鑑定」という。)の証明力が減殺されることを認めながらも、弁護人請求の鑑定の証明力を正しく評価せず、被害者が事故死であった可能性を過小評価し、かつ、供述を変遷させる供述弱者の自白を過大評価して、「直ちに各確定判決における頸部圧迫による窒息死との認定に合理的疑いを生じさせるとは言えない」として再審請求を棄却した。そして、即時抗告審である福岡高等裁判所宮崎支部もそれを維持した。

しかし、旧鑑定は、事実認定の基礎をなすものであり、旧鑑定の証明力が減殺されるのであれば、いわゆる白鳥・財田川決定にしたがって、新旧全証拠の総合評価を適切に行い、「疑わしきは被告人の利益に」の原則を適用し、再審開始決定がなされなければならない。再審請求審、即時抗告審の判断は、到底是認できない。

96歳となる原口さんに対しては、一刻も早く再審公判が開かれなければならない。現在、請求人による特別抗告がなされているところ、当会は、最高裁判所に対し、再審請求棄却決定を破棄自判し、再審開始決定をするよう強く求める。